腐敗と発酵…C/N比率のお話し



「何もせずに放置すると、野菜は腐る」

が、当たり前だと思っている人が多いのではないでしょうか?

でもそこらに生えている草はどうでしょうか。腐りません。枯れます。

実際、そこら辺の草と同じように育てた野菜は、腐りません。枯れます。

これは、「発酵」と「腐敗」という現象の差が原因です。

なぜ私たちが手に取る野菜はそのまま放置すると枯れるのではなく腐るのか。

今回はそんなお話しです。


たくさんの食品に利用される発酵…けど、

発酵と腐敗は、そもそも有機物を無機物に変える微生物の働きということでは一緒のことで、
人間にとって「有益」か「有害」かという線引きで使い分けられているだけです。

この差はなんなのかというと、主に、分解者である微生物の違いです。

発酵型の微生物と、腐敗型の微生物がいるのです。

植物が枯れる(=発酵する)自然の生態系の世界では何が起きているのかをまず説明します。


放っておくと発酵ではなく腐敗してしまう

自然の土中の微生物や糸状菌の主な働き

は、植物の成長に必要な栄養分を周りから集め、無機物にすることです。

この微生物と糸状菌のエネルギー源は炭素です。

炭素分(ごはん)が無ければ、いくら植物の栄養分になる素材が豊富にあっても微生物達は働けません。

この働きを知らないまま農学はスタートしてしまったので、一般的に農業は、糸状菌や微生物の存在を軽視して、植物が必要としている栄養素を直接供給しようと、炭素分の少ないものが肥料として有効といわれています。

さらに無機体窒素(化学肥料)は糸状菌を殺します。必要なものを集める役目の生物がいなくなるので、連鎖的に微生物も減少して、ますます施肥が必要になります。

このメカニズムを知らないため、肥料が無いと野菜は育たない、となるのです。


逆に餌である炭素さえ十分にあれば、微生物達は勝手に自分の住み心地の良いように土を変えます。

自然の中には炭素資材が十分にあり、その土壌に必要な分だけ糸状菌を始めとした生態系の活動が行われてバランスが保たれます。

この循環に入った土中の成分は、意外にも窒素やリンなどがとても少ないです。その日に必要な分だけを生産しすぐに吸収されて無くなるほどのバランスに自然となっていくからです。こちらが本来の自然な状態であり、1サイクルに2〜3度いっぺんに施肥をすることがいかに不自然な行為なのかが分かります。

人が施肥をしたバランスが崩れた土壌で育った野菜と、糸状菌と微生物の働きが活発に行われバランスの保たれた土壌で育った野菜の成分の違いで、集まってくる微生物が異なり、発酵型と腐敗型に分かれるのではないかといわれています。


発酵するものが人の食べ物、腐敗するものが虫の食べ物

だ、そうです。

なぜかというと、健康な人の腸はやや酸性、虫の腸はアルカリ性だからで、身体の中の性質が違うのです。

ですから、人の身体は本来『還元・発酵型』の食べ物しか適さないし、虫の身体は『酸化・腐敗型』の食べ物しか受け付けません

人と昆虫は消化器官の性質が違う

適さないものを食べると身体に異変が起こります。

木酢液を殺虫剤の代わりとして野菜にかけるのは、発酵作用を持つ微生物を虫に食べさせている(もしくはそうやって食べられなくする)んです。もし食べた虫は腸が破壊されて死にます。


人間は微生物達のように絶妙なバランスで施肥することができません

数十種類とある成分の中で必要なものの必要な量が、土壌ごとにミリ単位で違います。人間がやればほぼ必ずなにかが過剰になります

そして植物は基本的に土壌に不要なものは吸い上げようとするので、その時点で腐敗型になります

だから虫がつく。

今の農業で作られているものは、本来、虫が食べるべきものを、農薬等で守り育て、人が食べているんです。

スーパーマーケットなどであなたが手に取る野菜は、腐るもの、でしょう?


C/N比率

農学には、肥料の成分を比較するC/N比率という数字があります。

元素記号どおり、Cが炭素をあらわし、Nが窒素をあらわします。

窒素1あたり、炭素がどれくらい含まれているかということです。


一般に、鶏糞や豚糞で10以下、牛糞で20以下、米ぬかやコーヒーカスが20前後で、その他良く使われているものも概ね似たような水準です。

では、発酵と腐敗の境目はC/N比率でいうところいくつでしょうか。

答えは、40前後だそうです。

C/N比率40以上で糸状菌類の活動が活発になるとのこと。

つまり土壌のC/N比率が40くらいになっていないと発酵型のサイクルにはならないんです。

ちなみに、一般にはC/N比率が高い(=窒素量が少ない)素材を土に加えると、窒素飢餓と呼ばれる症状が植物にあらわれるので良くないと言われています。

これはまず人が肥料をあげないと野菜は育たない(=土の中に微生物達がいない環境である)ことが前提ですし、肥料として最適と言われているもののC/N比率が20以下なので、それと比べて20〜30以上を与えてはダメ、ということなんです。

繰り返しますが40くらいを保てば自然と糸状菌→発酵型微生物の順番で増えていき活動が活発になるので、窒素飢餓という現象も起こらなくなります。

言葉だけをとらえてしまうと矛盾しているように聞こえてしまうのですが、根本的な前提が違うのです。



腐敗型を食べる昆虫が発酵型を食べると死んでしまう

と書きました。

いま人間は、結果的に、前述したとおり腐敗する食べ物を生産して食べています
これは、本来の人間の身体の働きから考えると、とても不自然なものです。

なぜこれが、当たり前のようになってしまったのでしょうか。

人の手が入るとどうしても腐る環境になりやすい農耕を、数万年も続けてきてしまったため、現代〜近代を生きた誰もが、野菜は最初から腐るのが当たり前だと考えているから。

腐る野菜の育て方を基準に研究が進んでしまったから。

だから、もっと大きく、もっと早く、もっと綺麗に、もっと安定して、を目指し、農薬や除草剤、化学肥料を開発しては大量に使って、どんどん畑をさらに野菜が腐りやすい環境にしていったんです。

だから、農学は少しも間違ってはいないのです。

腐る野菜を育てるための学問なのだから。

今回のお話しは炭素循環農法という考え方を参考に書きました。

私自身勉強不足ですので、細かいところでは解釈が間違っている部分があるかもしれません。

また、話を簡略化するため、割愛している部分もございます。

ご興味がありましたら、ぜひ本家のWebサイトをのぞいてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございます。

著者:NPO法人見沼の里 車田喜由

(注)本コラムは筆者本人の個人的見解に基づいて書かれたものであり、
当NPO法人の見解、意見等を示すものではありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です